東西南北見ブ録

誰だってスーパーヒーロー

モダンボーイズ 考察と感想【4/3初日夜・4/10昼・4/14夜・4/15夜】

人はなぜ物語を必要とするのか。
役者はなぜ舞台に立つのか。

 

※セリフ等々記憶で補ってるので超絶ニュアンスです

 

 

【構成】

活動弁士の語りから始まることで、モダンボーイズ』という演目として一本の物語を観ているメタ前提が提示される。

トーキーの普及により弁士や楽士の解雇が起こる場面から、現実(物語を観ている観客というメタ設定)と物語(エフリィたちの生きる世界)の時間軸が混ざり、物語に引き込まれる構成になっている。

二幕最後で菊谷が立ち去った直後、エフリィの振り向きから始まるショーは、メタ設定であるモダンボーイズ』という演目を観ている状況に帰する “生きて帰りし”構成で、観客の没入感を掻き立てる構成。

物語(加藤シゲアキ主演モダンボーイズ、現実の観劇)の中で物語(活動弁士が語る一幕『モダンボーイズ』)を観ている二重構成。

 

 

【思想と戦争】

キャラごとの考えや意思を描き分け衝突させることで、物語の重要な要素である『思想と戦争』を一方的ではなく多角的に示し、考えさせる構成になっている。誰が悪い、ではなく時代の波に飲まれる人々をリアルに描き、物語に深みが増している。

 

・工藤卓蔵(革命家)

「お前のやってることは大衆への幻惑だ」
「革命は命懸けなんだ」

菊谷「友達じゃないか」
「俺は同志だと思っていたよ」
気前のいい菊谷にとって、資金援助は思想に組みする意味合いよりも「友達だから」の面が大きい。検閲にはうんざりしていて援助は厭わないが、社会主義運動に参加するよりレビューで戦いたい思い。
対する工藤は「革命に命をかける同志」と捉え、本気じゃない菊谷に失望する。

浅草エフリィとして舞台に立つ奏に対しても、「裏切り者」という感情が強い。

「革命の炎は消えたか」
「革命以外に手立てがあるか!馬鹿げた見せ物にうつつを抜かすお前らに…!」
拷問を耐え、なおも主義活動を続けようとする工藤にとって、エフリィも菊谷も裏切り者で、「殺す覚悟で来た」とナイフを持ち出す。

 

・佐藤文雄(劇場支配人)

工藤がエフリィに会いにきたシーン。
「頼む、もう二度と赤には戻らんでくれ」と主義には否定的な面を見せるも、「もちろん思想は個人の自由だが」と話すことで、頭ごなしに否定しているのではないと分からせる。
「これ以上検閲の目が厳しくなったら堪らん」
劇場の支配人・代表である佐藤さんにとって、主義を語り戦うことよりも劇場を守ることが何よりも大事。主義思想に命懸けなことにも理解はあるが、今の生活を捨てるほどの価値を見出せない。
誰もがどちらかの主義に組みするわけではない、世間一般の感覚を持つ人もいると明示する上で、佐藤さんのポジションが明示される意味合いは大きい。

 

・松井天声(弁士/弁さん)

弁士の職を奪われ、乙女ねぇさんの腰ヒモになり、株で大儲け、不況で没落、軍部に入隊。

菊谷さんの入隊を輝かしい武功と捉え、「生きて帰ってこい!」「鉄砲の届かないところでしゃがんでいてください!」を恥、反逆と捉える。
エノケン一座のサイドから見ると異常な存在に映ってしまい違和感を感じさせるが、「お国のために死す」精神があったのは事実だし、これがリアルなんだろうなぁと感じる。

弁さんとのいざこざを抑えた菊谷さんのセリフも深い。
「僕は何一つ変わりません」「戦地にいても僕はレビュー人です」
変わってしまった弁さんへの当て付けとも取れるようなセリフ。
夢半ばで入隊を余儀なくされた菊谷さんは、「どうにもこうにも行くしかねぇべや」と諦めを見せ、穏やかに笑って見せつつも、やはり軍部への怒り憤りが感じられる。

 

 

【エフリィと故郷】

裕福な家庭で生まれ育ったエフリィは、東京に出て貧困の問題に直面し、社会主義活動に加担するようになる。
音楽を心から締め出し封印していたエフリィだが、警察に追われた際、菊谷の「故郷のかっちゃ、泣かせばないね」「故郷のかっちゃのピアノ思い出すべし」の言葉で再び音楽を取り戻す。

「最初は意地張ってたんだろうねぇ」
噂で判断せず、自身の目で初めて見たレビューでは「難しい顔」をしていたが、二幕で堪えきれずに踊り出し、魅了されていく。


「革命の炎は消えたか」
社会主義活動への炎は消えました」「僕は今、レビュー人です。しかし、歪んだ社会に対する憤りはきえていません!」
「革命以外に手立てがあるか!馬鹿げた見せ物にうつつを抜かすお前らに…!」
「ここが奇跡の起きる場所です。目には見えないけれど、人の心に起こる奇跡があります。これが僕の戦いです!」
「やるせなさを抱えた人もいるでしょう。思い出に浸り、目を閉じたままの人もいるでしょう。けれど彼らはみな、故郷に帰るような思いでいることでしょう」
「どうかお元気で。同志たちにも、レビューを見てくれる日がくることを願っています」

夢子が姿を消し、暗く落ち込んだエノケン一座を奮い立たせる際も、「メソメソすんなよ!陽気に行こうぜ!」「ラッセーラー!」と故郷のねぶたを陽気に踊った。

エフリィにとって、劇場は「故郷に帰るような思い」になれる場所音楽のルーツとしての青森の存在が随所で描かれている。

 

 

【エフリィとおタキさん】

「エフリィ先生がお辞めになるって…。残念でなりません。エフリィ先生と夢子先生の歌声を聞くのが、最近の生き甲斐でした」
「私に先生は要らないわ」
「大勢の前で堂々としていらっしゃるんですから」
「まるで物語のお姫様と王子さま。こんな綺麗なものが現実の世界にあるんだなぁ」
おタキさんが心底残念がるのを聞き、エフリィの気持ちが揺らぐ。

「こんなことになるんなら、おっかさんの形見を質に入れてでも見るべきだった」
私はこれ、エフリィが母からピアノを学び音楽に魅了された経緯があるからこそ、思いとどまらせる決定打になったと思ってます...。

 

「エフリィは、明日も明後日もその先も。舞台に立ち続けます」

 この時代に不要とも思われるレビューを、生きがいにして待ち望んでいる人がいる。

「劇場の扉を開け幕を上げ続けること」の価値を気づかせてくれたのは、おタキさんとの交流があればこそ。

 

ずっと「私の手は便所掃除の手」と言って卑下して触らせないよう避けていたおタキさんに対して、その手に優しく触れてキスしてあげるエフリィのシーンで大号泣してしまった。

 

エフリィとおタキさんは、互いを肯定し合う存在。
どちらかが欠けたら成立しない役者と観客の関係。

片や与える側、片や受け取る側に二分されているように見えて、生身の人と人が影響し合う『舞台』『エンターテイメント』ならではの凄みを改めて実感した。

 

【エフリィと夢子】

夢子がヤクザの元にいたことを知った後でも、エフリィは「恋人です!」と叫ぶ。劇場ではバレないように徹底しているのに、いざという時に守る姿勢。

 

それに対して夢子が「そうよ!恋人よ!!」と返すのがとても感動した。

エフリィに危害が及ばないよう、「知らない人」と言うこともできる。

けれど夢子は、「ここでは嘘泣きも嘘笑いもしたことがないの」の言葉通り、劇場で嘘をつくことは無い。夢子にとっても、正真正銘、奏が恋人なのだ。

だからこそ、その別れの悲しみは計り知れない。

「フィナーレが来ちゃった。夢の終わりだね」

「まだ夢の途中だよ」

「それでも私は幸せだった」

「レビューのように華やかに終わりたいわ」

 

「夢子はここに心を置いていきました。僕はその心を抱きしめて舞台に立たなければならないんです」

 

二人がお互いに高め合いながら夢を目指す時間が幸せすぎて、別れが悲しすぎる。

「ミュージカルに出ようよ、二人で」「私は無理よ。端の方で踊っているわ」「本当に?いいの、それで?」

この時のエフリィのいたずらっ子のように甘やかす顔が好きだし、聞き分けのいいフリしてた夢子が「嫌だあっ!」と顔をしかめるのも、全部幸せだった...。

「君は "1番好きなことをする喜び" を知っている。夢子が可愛いのは、心が輝いているからだ」

嗚呼、あなただけは消えないで...........(唐突な恋しら)

 

 

【夢の舞台に立つ演者の存在】


それぞれの想いを抱えて舞台に立つ役者、レビュー人の描き分けも秀逸。

 

エゾケン「エノケンの親父にウチに来いって言ってもらった時は泣けたなぁ」
デッパ「駄菓子屋も務まらないのに先生だなんて」
鎌倉乙女「もとはバレリーナだったのさ」
三条綾子「女は家の道具じゃないっての」
ヨシミ「女の稼げる仕事なんて身を売る以外何があるってのさ」

「みんな似たようなもんだろう。流れ流れて吹き溜まりさ」

その中で夢子とエフリィはレビューに魅せられた存在として描かれているが、夢子はヤクザに、エフリィは警察に追われる身。やはり「流れ流れて吹き溜まり」に違いはない。

菊谷だけが初めから純粋に舞台に夢を抱いて続けている。そのせいか、菊谷の言葉の力は誰よりも強い。 


けれど、一座全員がレビューに魅せられ、その力を信じた人物であることには他ならない。


毛虫のダンスについて(エゾケン)
「心を込めて歌っているか?毛虫が踊りたくなるためにはまず、自分も楽しく踊らにゃ」

 

「お客さんはみんな、色んな思いを抱えてくる」「それでもこの劇場の椅子に座っている間は、全て忘れさせてやる」

 

浅草は事故に強いんだ。何があっても幕を上げ続ける。

「マチネの中止はやむを得んな」
「ダメです!幕を上げましょう!穴は全員で埋めて!浅草は事故に強いんだ」
「夢子は消えたくて消えたんじゃない。ここに居る以上の幸せはありません」
「幕を上げること。今僕にできることはそれしかないんです」

 

【夢子の夢】

先述の通り、ヤクザに追われる身で流れ流れ着いたレビューショー。そこで夢子は夢を見つける。

「レビューは薬です。どんなに辛くても薬となるんです」

奏にレビューを見て欲しいと強く願ったのも、自分が救われた経験があるからこそ。

「ここは夢の国だね。私、楽しくって仕方がないの」

「ここでは嘘泣きも嘘笑いもしたことがないの」

夢子の夢は、いつかミュージカルの舞台に立つスターになること。蝶のようにステージを舞うこと。

「それ以上この小屋に入ってくるなら私はここで舌を噛み切ってやる」

「この場所は死んでも汚させない!」

ヤクザに追われ、自分の身がどうなるかも分からない中でも、劇場に対する思いに嘘はつかない。

「フィナーレが来ちゃった。夢の終わりだね」

「レビューのように華やかに終わりたいわ」

「ラストシーンくらい心を込めろ!!」
もう2度と会えないと分かっていながらも「林檎の木の下で明日また会いましょう」と歌う夢子。

【菊谷の戦い】

検閲のたびに台本を書き直す。警察を快くは思っていないが、朗らかに明るくレビューを届けることに尽力し続けている。

「検閲官も赤もみんな、レビューの虜にしちまおう」「踊り狂わせてやればいいのさ」

「お得意様の中には『仕切り直してまた楽しませてくれ』と言ってくださる方もいる」
「元通りではなくプレゼントを渡したいんだ」

「無理でも準備しておくんだ。いつかできるように…」

「あーーー!好き放題やりてぇなぁーーー!」

 

「沈黙は罪です!」
「僕らは沈黙しちゃいない。沈黙とは劇場のドアを閉じることだ」

「彼らは僕の1番大事なものを奪えやしない。自由だ」

「レビューはこの世に全く不要なものかもしれない。けれど、大勢の人が僕らのレビューを楽しみにしてくれている」
右でも左でもない。上でも下でもない。あるのは唯一、陽気に劇場のドアを開け、幕を上げ続けること」

「ここに来れば誰もが束の間、自由になれる」

「右でも左でもない」のセリフが、主義(右派・左派)を示していて、思想に組しない自由さを印象付けていて本が良いと思った。

「君は音楽を取り戻すべきだ」
「君が創り出そうとする世界に、音楽はないのか?」「僕と、戦って欲しい」

主義活動以外にも、歪んだ世界に立ち向かう方法はある。エフリィにとって、菊谷さんとの出会いは音楽を取り戻したことと同じくらい価値のあるものだと感じる。

 

そんな菊谷さんが入隊の知らせを受けた時、
「無性にピアノが弾きたくなってな…」と選曲したのが『革命のエチュード
物語の核である「主義」「戦争」に巻き込まれて夢を断念せざるを得なくなった菊谷さんが、レビュー人として戦う時、音楽を味方に『革命のエチュード』を選ぶのが…。
声なき声をあげること。レビュー人として戦うこと。
ショパンエチュード己の怒りをぶつけた曲。
これは菊谷さんの『革命』であって、歪んだ社会に対する怒り…。
この悲しみが分かるか。この怒りが分かるか。
荒々しい気持ちが沈黙の中で鳴り響いていた。
菊谷さんは音楽の中に生きていて、エンターテイメントの中に生きている。
その「自由」を奪われる悲しみと怒り。

「どうもこうも、行くしかねーべや。自由の道は険しいぞ」

夢を断念した夢子と菊谷さんの2人、というのがまた泣けてしまう。消えたくて消えたんじゃない。蝶になって空を舞う自由を誰よりも強く望んでいる。そんな2人の、悔しさややるせなさ、それでも舞台に焦がれる情熱が伝わってきて、涙が止まらなかった。

「僕の弔いはいりません。代わりにジャスを。思いっきり陽気に奏でてください」

【和田純の存在】

「こいつは主義者だ」「こいつを匿ってるのがバレたら、この劇場ごと封鎖だぞ!」
面倒ごとは避けたいタイプ。
軍部からの招待の話を持ち込んだのも、金になり栄誉になるから。
プライドが高く、世渡りのことしか考えていないように見えるが、自分を押し殺していることを感じていて自分が1番許せていない感じがした。
だからこそ酒に飲まれ、ヤジを飛ばした客とは喧嘩沙汰になってしまう。

「今日はお客もノッてたのに!」「それが気に食わなかったのかもしれないね」「どこまでひねくれてるんだい!バチが当たったんだよバチが!」

自分自身に苛立つからこそ、自分の思いを簡単には曲げない、幸せのいいとこ取りをしようとするエフリィが鼻につく。

「舐めきってんのはテメェだ」「テメェこそ矛盾だらけじゃねぇか」

それでもレビューや音楽に対する思いは人一倍強い。

この時代じゃ無理だ、と諦めつつも、懸命に夢を追いかける菊谷やエフリィ、夢子を放っておけない。「夢子を連れて逃げろ」

「和田純、伴奏してよ」「ラストシーンくらい心を込めろ!!」文句を言われつつも、情的に弾きあげる。

「前借りだ。ミュージカルの曲、作ればいいんだろう」

悪者なのか味方なのか、違和感を感じずにはいられない存在だったけど、物語のスパイスとして重要すぎた人物。菊谷さんとエノケンと、エフリィと夢子と和田純で素敵なミュージカルを作って欲しかった。・゚・(⊃꒳⊂)・゚・。


【番外編①:面白部門】

・エフリィの手当てに集まった一座の面々を見て
佐藤「こりゃ薬局が開けるぞ」
佐藤さん、クソ真面目なおじさんぽいのにボソッと面白いこと大真面目なトーンで言うから大好きw

・エフリィと夢子を見た菊谷さん
「それだけっ」「約束よっ」「もう離さないっ!」「どうでしたか?抱き合ってましたぁ〜w」
目をかけてる弟たちが可愛くて仕方ないんだろうな…☺️本当に大好き…「あっえっ💦」って慌てるエフリィ死ぬほど可愛い。

・ノリに乗ったエフリィちゃん
「ハウスは日本語で?いえぇぇ〜!」
「食べちゃうのぉ?き・ん・つ・ば」
「俺はパイがいいなぁ。女子葡萄の乗った大きなパイ」
からの
「今日もエフリィこいてま〜す♡(チャンカパーナポーズ)」
マジで調子乗ってて可愛い、しかもそれが夢子との仲を悟られないようにわざとやってるカモフラージュのつもりなのも可愛い…。お座敷でお得意様に食われるぞ…。

 

 

【番外編②:NEWSと重ねてしまうSAGA】

 

・「キーが違くないですか?」

リ `▽´ノリキーが違ぇな (´・ш・)キーキーキーキーうるせぇな!

 

・「林檎の木の下でまた明日会いましょう」

(´・ш・)また明日ねって言ったのに離れられない

 

・「しかし奏、お前は大丈夫か?」
「今もギリギリで立ってます…」

拝啓あの日の僕へ、いまもここで立っています

 

 

 

【番外編③:うまく言葉にできないけど好きなセリフたち】

 「君たちの想いは間違っちゃいない」

「君はまだまだ未熟だ。演者は華やかな衣装の下で、汗と涙を流すんだ」

「何も隅田川を泳いで渡れってんじゃぁない、ただ客席に座るだけじゃない!」

「自ら歌わない鳥を無理矢理歌わせたら、…その鳥は死ぬんです」

 「鉄砲のこないところでしゃがんでいてね」

「音楽を思い出せなかったら、僕の心は胸の中で石になって干からびていたことでしょう」

 

【アドリブ等々】

4/10 昼



4/14 夜

 

4/15 夜



 

感想モーメント

モダンボーイズ感想

 

 

奏くんについての考察があまりできなかったけど、奏くんは舞台で見たものが全てだと思う。

本当に素晴らしい作品だった。

語彙力が追いつかないのが悔しい。

とても良い演劇に出会えたこと。不要なものだなんて思わない。人生を彩る大切な宝物になった。

 本当に本当に、いま観劇できてよかった!